読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

あなたが愛するそのコケはどこからきたのか【生命を持たない芸術作品】

苔っていいですね、

苔玉や苔を使った色んな楽しみ方が最近本やメディアで多く紹介されてます。

でも少し外に目を向けて見ましょうか、そろそろ梅雨に入り雨が降ればそれまであまり目立たなかった苔達が雨を吸い込みその美しい世界を現します。f:id:chiike:20150525215100j:plain

そんな外に広がる世界を丁寧に記したのが、今回紹介する築地書館から出てる「コケの自然史」

コケの研究者としての深く粘り強い観察眼と、ネイティブアメリカン、ポタワタミ族の祖父から受け継いだ哲学の2つの視点からこの本はできています。

コケの自然誌

コケの自然誌

 

※写真は全てPanasonic DMC- GH4で撮影、Photoshop加工

著者

ロビン・ウォール・キマラー

1953年NY産まれ。NY州立大学環境森林科学部准教授。

ネイティブアメリカン、ポタワタミ族出身

二人の娘の母

f:id:chiike:20150525222845j:plain

本について

この本の面白さは、よくあるスピリチュアル本と少し違って、一見ポエムっぽい文体でありながらも、大学で生物学や生態学植物学の教鞭をとりフィールドで何年も同じコケを観察し続けるような観察眼を持つ科学者であるところが素晴らしい一冊。

自然と対話をしながら彼女の自然哲学を元に科学的な知見を織り交ぜて話を進めています。

f:id:chiike:20150525225556j:plain

本の中で彼女自身が科学者として自然と対話していく過程は、僕自身が造園業として樹木や、コケへの疑問を解くヒントを与えてくれて実に読ませてくれました。

コケは森の苗床

鉄鉱石採掘場後の荒廃した跡を調査するエピソードで、広大な面積を荒れ地にした跡で植物が育たない場所でもコケだけは一部ではあるが自分の陣地を広げ、そのコケの上に落ちた草の種子が発芽しているのを発見していた。

f:id:chiike:20150525233105j:plain

コケを苗床にして長い時間をかけ森は拠点を広げていく。

小さくて何の役に立っているのか分からないようなコケもこの世界を回す大事なプレーヤーの一人だ。

人工のコケ庭園【生命を持たない芸術作品】

僕自身庭師であると同時にコケを使った庭園が好きで自分の家の玄関の前の庭をコケ庭園へ改装しようとしています。

f:id:chiike:20150516224208j:plain

以前モスグラフィティの記事を読んでモスミルクについて気になっていた。

gqjapan.jp

この本の中で著者が、人工のコケ庭園を作るプロジェクトに参加した時のエピソードがあり、モスミルクを使うとなぜコケが定着するのかについての考察が書かれていて参考になった。

f:id:chiike:20150526003659j:plain

自然とコケについて

このエピソードではモスミルクと同時に、強引な開発を伴うコケ庭園についての彼女の哲学とその思想についても学べる。

f:id:chiike:20150525232656j:plain

プロジェクトを発注したのは最後まで姿を表すことの無かったコケを愛する大金持ちで、大量のコケを自然から奪い取り、長い年月でようやく成長するコケを無理やり自分の庭に飾ろうとしていた。

その方法は植生を無視したり瞬間接着剤で直接岩に貼り付けたりと無茶苦茶。

その中で苔のスペシャリストとしてコンサルタントを行いコケミルク方法を教えて現場を後にした。

f:id:chiike:20150525234049j:plain

その一年後またその現場に呼ばれた彼女が見たのは、巨大な岩にびっしりと張り巡らされた多種多様な苔の姿だった。

彼女はコケミルクの半信半疑だった効能について見なおしたのもつかの間、次に目にしたのは現場から少し離れた場所で自然の力で数百年の長い年月を経て作られたコケの岩場が、爆薬で崩されそのままさっき見た苔庭へと運ばれていくのを観ることになる。

f:id:chiike:20150525234547j:plain

彼女は言う

まやかしの古さで自分の庭を飾るために、青々とコケむす自然の岩礁を破壊するこの男はいったい何者なのだろう

>まやかしの古さで自分の庭を飾るために

猛烈に耳が痛い

コケを庭の近くから採取して培地を作って増やしているが、本物の古さになるまでには何十年もかかる

何かを所有するということはどういう意味なのか、私は理解しようとする。特に、野生の生きた存在を所有するということを。それは、自分だけがその命運を決める権利を持つ、ということだろうか。意のままにそれを処分したり、他の者にそれを使わせない、ということだろうか。所有というのは、人間しかしない行為に思える。それは、無益な所有と支配に対する欲望を正当化する、社会契約なのだ。

>無益な所有と支配に対する欲望を正当化する、社会契約なのだ

まさにコレ。

コレを自分自身が体験してしまってショックを受けている。

コケ泥棒

この本の最後にコケを自然の中から無理やり盗んでいく泥棒たちの事が載っている。

これと全く同じ事を身近で体験してしまった。

f:id:chiike:20150525215100j:plain

最近のコケブームで苔玉やコケ盆栽用に山にまでコケを盗みに業者達がやってくるようになってしまった。

特に苔庭を手っ取り早く作るため、一度に大量の苔のマットを敷き詰めようと大量の苔が山から盗まれるようになっている。

彼らコケ業者は、いかにも苔の専門家であるような顔をしているが、全く無知でいてさらに苔のことをただの金儲けにしかみていない

f:id:chiike:20150526001743j:plain

近くの山のハイキングコースになっている道路の壁面

上の写真は先日撮影したもの。

実はその3週間前まではブログの一番最初の写真の青々とした一面の苔の絨毯が広がっていた場所

f:id:chiike:20150525222845j:plain

多くの種類のコケ達がタペストリー状に広がる美しい壁面があった。

f:id:chiike:20150526002450j:plain

上が現在。

偽物の苔専門家達はそのタペストリーを無理やり剥がして自分の商品として持って帰る。

苔はすぐに元通りになるとウソブキながらその欲望を満たす。

f:id:chiike:20150526002658j:plain

だけど苔はそんな簡単な物じゃない。

苔達はギリギリのバランスの中でその姿を維持している。

強引な盗掘で岩の表面は苔が生きる条件を破壊され、菌と藻類の共生する地衣類の猛攻を受けて飲み込まれて無残に殺されて行ってるのが上の写真で解る。

コンクリートの壁面とは全く違うのに。

f:id:chiike:20150526004119j:plain

苔泥棒達は自然から盗むだけでは足りず、地元にある1200年続く古い神社の境内からも盗んでいっている。

f:id:chiike:20150526003737j:plain

神社の神主さんとの話しでは、この岩全面にびっしりと苔が生えて多くの人達が楽しんでいた。

そんな岩の苔も盗まれている。

恐ろしいことにこんな苔がオシャレなカフェの窓際で苔玉になって並んでいる。

山から盗んだ苔の多くの種類は苔玉にむりやり縛り付けても生き延びれない。

生きるための条件が全く違う種類なのに・・・

f:id:chiike:20150526004744j:plain

岩の上で苔が生えるには、表面が地衣類の出す酸によって侵食され、少しずつ苔が生えるための条件を整えて何十年という年月をへてようやく苔の絨毯が生まれる。

何十年の時間の結晶をコケ泥棒達は一瞬で全て破壊していく。

癒やしは本当に癒やしなの?

今は癒やしが流行っている。

本屋の棚を見れば色んな植物や癒やしのためのスポット紹介が大量に並んでる。

本を作る人の気持ちもわかるけど、少し考えて欲しい。

それは本当に癒やしなのか、コケに逢いたいのなら少しの観察力で会いに行ける。

もしコケを手に入れたいのなら自分の身の回りを見渡せば良い。

一握りだけで十分、そのコケを正しい知識で増やせば良いだけ。

撒きゴケにしたりコケミルク方法を使ったりすればいい。

多くの苔が観たいのなら少し離れた山や古い神社仏閣に行けば良い。

f:id:chiike:20150526010929j:plain

自然への敬意を失ってしまえば、それはすでに生命を持たない芸術作品でしかない。

僕からは以上です。

今週のお題「最近おもしろかった本」